vol.12

PROJECT

ついさっきまで元気だった農作物が
数日後には枯れてしまう「青枯病」。
コロンビアの生産者を悩ませる
この病害をタキイ種苗はどう解決したのか?

日本から飛行機で約20時間。直線距離で約1万4000メートル離れたところにある南国・コロンビアでは、2010年頃、現地の農作物を「青枯病」が襲っていた。これは、青枯病菌が植物のなかで増殖し、植物を急速に枯らしてしまうというもの。いったん発生すると被害が大きく、生産者の暮らしを苦しめてしまう。そんな状況から生産者を救うために、タキイ種苗が挑んだこととは?

PROJECT MEMBER

粕谷憲寿

海外営業部 野菜営業開発課

2003年入社

海外各地を飛び回り、各国でタキイ種苗のタネを使った栽培のサポートを行う。別件で立ち寄ったコロンビアで、偶然、トマトにまつわる悩みを耳にしたことから「解決しなければ」と決意し、トマトの接木プロジェクトを立ち上げる。

TOPIC 01

収穫量の減少に苦しむ
生産者をどう救えるか。

2010年頃、コロンビアを訪問した頃のことです。とある場所で、困り果てた顔をした生産者と出会いました。「どうしたんですか?」と声を掛けると「栽培しているトマトが青枯病で、収穫量も例年の半分以下に落ち込んでいるんです」と言うのです。青枯病は日本でも発生する病気なのですが、高温多湿なところで多発する傾向があり、コロンビアはまさに青枯病の起こりやすい場所でした。しかも、詳しく調べてみると収穫量が半分以下どころか、ほとんど枯れてしまっている場所もあったのです。この事実に直面した私は「これは、必ず解決しなければならない問題だ」と、強い使命感を抱きました。 ただ、自分一人では何もできません。部署を問わず社内を横断して、さまざまな人の力を借りなければ太刀打ちできない大きな問題だったのです。しかし、幸いにも当時会社内で「接木」を拡販する取り組みが行われており「これを活用しよう!」と、すぐに活路を見出すことができたんです。 接木とは、植物の枝などを切り取って、同種や近縁種の植物につなぐことです。当時、接木の技術は日本が世界でも先端を走っており、青枯病にも効果が大きいことを私自身も知識として持っており、これは使えると思ったんです。

TOPIC 02

Action

とにかく、諦めずに接木の話をし続けた。

さっそく接木の技術を、農業用品やタネなどを販売するコロンビアの輸入代理店に「この技術を広めてほしい」と提案しました。しかし、彼らは難色を示すばかり。口頭で説明しても、具体的なイメージを持たせることができないことに加え、普及するためには、技術やノウハウ、時間が必要になることもあり、導入の難易度が高かったのです。 しかし私は、諦めることなく接木の話を至るところで話し続けました。現地で農場のオーナーと食事会をすることも多かったのですが、そのときも「接木という技術があって、これなら青枯病を解決できると思うんです」と発信し続けたのです。そして、とある日のこと。農場のオーナー、輸入代理店の担当者と食事をしたことがあり、そこでも私はしつこく接木をアピールしました。その気迫に押されたのか、オーナーが担当者に「トライしてみたら?」と勧めてくれたのです。担当者は「この日までに詳しい資料を用意してくれたら、挑戦してみる」とひとこと。数日後、厳しい提出期限のなかでできることをすべて凝縮した資料を担当者に渡しました。「ありがとう。これならやってみよう!」と快諾してもらったときの喜びは格別でしたね。

笑顔が、
コロンビアに広がる。

さっそく準備に入り、まずはタキイ種苗を代表する品種・桃太郎トマトの接木にまつわる事例を紹介しつつ、現地で協力してくれるプロジェクトメンバー間での理解を促進。必要な資材の準備をし、日本からコロンビアへの発送も進めていきました。 ただ、当時のコロンビアのトマト栽培は、タネから栽培するのが一般的で、生産者のなかに接木を利用する発想は一切ありませんでした。それだけに、私たちの提案を理解してもらうのにも一筋縄ではいきません。一人の生産者に対し、何度も打ち合わせをすることも数知れずありました。ただ、1回でも試作のGOサインが出たら結果を出せると確信していたので、どれだけ拒否されても退かないと決めていました。事実、許可を得て行った試作は想定通りの成果が出たこともあり、日に日に接木が生産者の間に広がっていきました。そして3年後、コロンビアでは青枯病の悩みはなくなり、収穫量も安定するように。生産者の皆さんに、笑顔が戻っていったのです。諦めずに突き進んで良かった!心からそう思えた出来事でした。

必要性を感じたら、
トライすべし。

コロンビアのプロジェクトを通じて、改めて学んだことがあります。何かをするきっかけは、自分の足で訪れ、実際に見たところにある。そして、その何かに全力で取り組むには、携わる人にとっての必要性を明確に見出すのが重要であるということです。そしてもう一つ、自分のなかで「実現すべきだ」と思ったことに対しては、強い信念で臨み、とにかく動き続けることが大切だということも学びました。
タキイ種苗のタネは、世界各地で使われています。それだけ、想いを実現できフィールドが広く、各地に与えられるインパクトも非常に大きいのではないでしょうか。コロンビアでの経験を通じて、私自身もこの仕事の新しい魅力と価値を発見できました。今は西南アジアを担当しているのですが、コロンビアでの学びを糧に、より大きな接木プロジェクトを動かし、世界各国の農業の発展に貢献していきたいですね。