vol.20

COLUMN

世界から
タネが消えたなら。

TOPIC 01

“風が吹けば
桶屋が儲かる”の逆。

「もしも世界からタネが消えたら…?」と問いかけたとしても、大半の人は「まず、そんなことあるわけがない」と答えるだろう。しかし、決してあり得ない話ではない。世界でタネが栽培される。そのタネを使って生産者が野菜を栽培する。実った野菜がスーパーなどの小売店に流通する。そして、あなたの食卓に並び、栄養になる。この一連の流れは、当たり前のようで当たり前ではない。数多くの人たちの挑戦、挫折、苦労があってこそ、初めて成立しているのだ。

彼らの努力がなければ、あなたの日常は数年後には大きく変わってしまうだろう。まず、日々の食卓から野菜が消える。野菜の摂取量が減れば、体調に悪影響が出始める。日常生活にも支障をきたすようになり、描いていた人生を送れなくなる。無論、充実した学生生活はどんどん遠ざかっていくのだ。“風が吹けば桶屋が儲かる”の逆パターンである。

TOPIC 02

タイの採種農家を
悩ませるナス。

毎年、食卓に彩り豊かな野菜が並ぶのは、タキイ種苗の技術や情熱があってこそ。今日も、世界のネットワークをフルに活用して、あなたのもとにたどり着く野菜を届けるべく、各々が懸命に考え、動いている。たとえば生産部。来年、どれくらいのタネを生産するか。それを満たすためには、どの国でどれだけの量をつくればいいか。トマト、ピーマン、ナス…それぞれの品種について、綿密に数年単位の計画を立てて遂行しているのだ。ただ、描いた青写真通りに事が運ぶことはほとんどない。予想だにしない天候の変化が生産計画を狂わせることは日常茶飯事。しかし、最低限の品質と量は確保しないといけない。状況が劣勢であれば、生産部のスタッフ自身が現地に赴き、改善を施すことも少なくないのだ。

その一例として、タイで採取しているナスにまつわる一件を紹介しよう。とある品種で、できあがったすべての種子の発芽品質検査を行ったところ、発芽率が80%前後と苦戦しているものがあった。原因がタネにあることは明らか。潅水方法、枝の本数、果実を付ける数などについて、毎年、試験を行っては、改善を重ねていった。結果として発芽率は約95%にまで回復した。この成果を出せたポイントは、タネの改善以外にふたつある。

TOPIC 03

国内外の足並みを
そろえるために。

発芽率が改善した理由のひとつめは、部署間の連携を強くしたことである。ナスを開発するブリーダーに、実際に現地まで足を運んで課題を把握してもらうよう、タイの畑まで来てもらった。彼らも日々の仕事で忙しく、しかも海外出張となると、他の業務が完全に止まる。しかし、百聞は一見にしかず。どうしても、現状を肌で感じてもらう必要があったのである。また、品質部門に限らず、加工やロジスティック部門と連携して、部署間で緻密にPDCAを回せる体制をつくり、あらゆる策を考えた。

もうひとつは、現地生産者の協力を得られたことである。いくらタキイ種苗が改善案を企画しても、それを了承し実際に行うのはタイの採種委託会社であり生産者である。しかし、どんなことでもそうだが、新しいことを始めると大きな負担が掛かるものだ。最初は「今までの方法を大切にしたい」と強い反発を受けた。それに対して、タキイ種苗は「いきなりガラリと変えてほしいとは思わない。少しずつでもいいから対応してもらえると嬉しい」と、小さな改善を少しずつ提案し、お互いが納得してプロジェクトを進めるためのロードマップを提示していったのである。最後は採種農家も「そこまで真剣に考えてくれるなら」と、前向きに協力することを約束してくれた。

解決の糸口は、
水やりのパラドックス。

社内の各部署、タイの採種農家からの協力を得つつ、トライ&エラーを繰り返すこと数年。とうとう課題解決の方向性が見つかってきた。そのナスは、発芽してタネができるまでの間に、どうしても最期、木が弱ってしまっていた。「それが原因でいい果実が実らず、タネの品質に悪影響を与えているのでは」と、プロジェクトメンバーは分析したのである。そこで彼らが始めたのは、潅水の分量変更だ。それまでは、成長に応じて水の量を徐々に少なくしていたものを、逆に増やすようにしたのである。水の少なさが、いい果実をつくるためのパワーづくりを妨げているのでは、と。タネができるまで水の量を増やし続けるのは、生産者にとっても大きな負担だ。しかし、彼らは粘り強く頑張ってくれた。結果、前述したとおり、発芽率は向上したのである。

「今よりも発芽率を伸ばし、ひとつでも多くの野菜を食卓に届けたい」という想いは、現在も変わらない。今日も、タキイ種苗とタイの種子生産の現場では、より品質の高いタネを一粒でも多く収穫できるよう、多くのスタッフが、考え、悩み、決断し、動いている。そんな彼らがいてこそ、あなたのもとに多くの野菜が届くことを、少しでも認識してくれたら、私たちにとってそれ以上に嬉しいことはない。