REPORT
「産官学連携プロジェクト」を通して、農業の可能性を拡大する。
アジアモンスーンPFSコンソーシアムとは?
2010年代中頃のこと、「日本を代表する第一産業の農業をより良いものにするべく、別の業界から技術やノウハウを導入したい」と、さまざまな業界の企業や大学の専門家が集まり、情報交換をする場が設けられました。のちに、農林水産省が「産官学連携を進めて、農業の進化に貢献したい」という意向を正式に発表し、“知の集積と活用の場”として活動することになりました。参加企業は、タキイ種苗のほかにも多数。加えて北海道大学や、東京大学、名古屋大学、大阪大学などもメンバーとなり、会議を重ねた結果、技術を結集して取り組むべきテーマを“アジア地域に多い高温多湿の気候でも園芸ができる技術を構築する”と設定。そこに経済産業省も加わって発足したのが「アジアモンスーンPFSコンソーシアム」なのです。
高温多湿の気候でも
野菜の栽培を可能にする技術とは。
各社、各大学、経済産業省と協議を重ね、高温多湿の気候でも園芸ができる技術を構築するために、まずは、実験の舞台となるビニールハウスを石垣島に建築することを決定。そして、下記5項目のテーマが設定され、プロジェクトは進んでいきました。
THEME
1. 最適な栽培パッケージとなるハウス環境制御技術を確立する
2. ハウスに適正なフィルムをつくる
3. 高温多湿な環境に最適な栽培技術を構築する
4. ハウス内で栽培する苗について、適した品種を提案する
5. 苗の成長、環境の管理などをICTで管理する
このなかでタキイ種苗が担当したのは、「3.高温多湿な環境に最適な栽培技術を構築する」「4.ハウス内で栽培する苗について、適した品種を提案する」の2つ。加えて、単純に育苗を推進するだけでなく、機能性成分を追加するという付加価値をつける研究も進めました。また、電気代の節約と環境への配慮を目的とし、今回建築するビニールハウスでは品種に照射する光源にLEDが使用されています。そこでタキイ種苗は、LEDでも苗の品質を維持しつつ、栽培を早められる技術を確立する研究にも参加しました。
他のテーマについても、A社がハウス内での環境コントロール技術の確立を、B社が太陽光に含まれる不要な成分を除去してハウスダストを改善するフィルムの開発を、というように各企業・各大学が得意領域を活かしてプロジェクトを推進していきました。
研究の進捗・成果と、
タキイ種苗が得た恩恵とは。
このプロジェクトにおける栽培の対象品目は、トマト、イチゴ、パプリカ。そのなかで、タキイ種苗が提案したトマトは、ビニールハウス内における高温多湿の環境でも栽培を成功させることができ、研究は次の段階に。現在は、タキイ種苗の製品である「ファイトリッチ」のように機能性成分を持つ品種に改良できるかどうかを検討しています。このプロジェクトは2021年3月に終了したのですが、現在は今後も継続していくためのアイデアをプロジェクトメンバーで協議したり、ビジネス化に向けたプロセスを模索している最中です。
C社がリーダーとなって構築した“Society5.0におけるファームコンプレックス研究開発プラットフォーム”はそのひとつ。これは、施設型第一次産業の技術革新と、さまざまなデータベースを統合活用する高度な情報の連携を進めるプロジェクトです。これによって、国内における第一産業の生産効率化、バリューチェーンの整備・強化による海外収益の拡大、技術ライセンスやコンサルティングなどの新ビジネス創出という3項目を目的にしており、タキイ種苗もこのプロジェクトに参加しています。
アジアモンスーンPFSコンソーシアムに参加できたことは、タキイ種苗にとって大きな財産になりました。特に異業種企業とのつながりは、このような機会がない限り構築できなかったものです。現在では、プロジェクト以外の事業においても、コラボレーションの機会が徐々に増えています。たとえばD社からは、「土壌分析をする装置の販売に協力してほしい」と打診され、協議を進めている最中です。他にも、当社でお客様向けのヨーロッパでの研修旅行を開催する際、プロジェクトの参加メンバーだったE社のネットワークを活用することで、現地でも有数の規模を誇る他社の研究所やイノベーションセンターに訪問することができたのです。
このように現在でも、アジアモンスーンPFSコンソーシアムを通じた出会いによって、事業の裾野が広がり続けています。